八十路半ば淑美の独り言 (七十路改め)

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zoom RSS 「思考の整理学」を読んで

<<   作成日時 : 2008/08/16 15:11   >>

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 「1986年以来の超ロングセラー」
「考えることの楽しさを満喫させてくれる本」
こんな謳い文句にひかれて外山滋比古氏の著書「思考の整理学」(ちくま文庫)を読んだ。


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 文体は平易、持って回った言い回しをしない論理のはっきりした文章は,読みやすく理解しやすく、まさに思考の整理を実践した本であるが、内容は私にとっては、目新しいと言うよりは「同感」「そうそう私も経験済み」というものであった。

同感1 グライダー人間と飛行機人間
 「グライダーと飛行機のちがいは、自力飛翔ができるかどうかだが、人間にもグライダー人間と飛行機人間がいる。
学校はグライダー人間を作るには適しているが、飛行機人間を作る努力は少ししかしていない」(p、11)と書いているが全くの同感である。
本書は。グライダー人間を飛行機人間に近づけるための指南書の目的で書かれたのかと思わせる書き出しである。

 「習ってないからできない」「教えてくれる人がいないからできない」という人は、学生だけではなく、大人も含めて周囲に溢れている。
「習ってないなら自分で調べる」の意識は持たないのだ。
その結果、生涯教育というと文化教室や講習会、講演会などに出かけて誰かになにかを教わることだと思ってしまい、考え方も行動も他人のトレースをして生きていけば安心だと思ってしまう。
 確かに物事の基本の知識や規則、法則は生きるための土台として習う必要がある。
しかし、大切なのは、そこから先それをどのように駆使して、展開して自分独自のものを生み出すかなのだが、そこのところの訓練ははぶいて、展開のしかた、好ましい到達点まで教えてしまい、それだけを覚えればいいというのが、大体の学校教育だから、自分で考える能力は封じ込められてしまう。
学校での教育期間が長くなればなるほど敷かれたレールの上を走るのが上手な人間に育ってしまう。
レールから落ちたとき、行き止まりになったとき、どうすればよいか自分で考えることのできる人間を育てなくてはならないのにーー
 私は高校の教壇に立っていたときには、この観点からささやかな工夫をしていた。
たとえばスポンジケーキを焼く学習をする。
そこで学ぶ知識は、スポンジケーキを上手に焼く知識だけではなくて、他のレシピを参考にして、違ったケーキを独力で焼くことに役立つ広がりのあるものでなくてはならないし、失敗の原因を反省する考察力も経験することが大切である。
「ジェンダー」の学習が言葉の意味を教え、覚えさせるだけで終わっては学習する意味がない。
学びの経験は自分の周囲への観察力を育て、以後の行動や考えを進める基礎になる必要があるし、考える訓練に役立たなくてはならない。
 したがってテストには、単なる知識の記憶を答える問題だけではなく、必ず一つか二つは自分の考えを書かせる出題をした。
その答えの趣旨が一般論あるいは私の考えに合っている必要はない。
それぞれの意見、主張が書いてあればよいのだ。
この出題の土台にはもう一つの私見がある。すなわち
「情報化社会においては、情報の単なる受取手であるだけでなく、自分自身が情報のよき発信者でもあるべきだ」
 最初、生徒は面食らった。何をどう書けばよいのかわからないのだ。
しかし回を重ねていると、慣れてきていろいろ書いてくれるようになった。
受動的に学ばされたものを吐き出すだけではなく、自分の主張を表現できる場を喜ぶ生徒も出てくるようになった。


同感2、朝飯前の仕事、思考の醸造
 中国の欧陽修という人が文章を作るときに、優れた考えがよく浮かぶ三つの場所として
三上(馬上,枕上、厠上)を上げた話を紹介し(p、37)、次のようなことを書いている。
 「朝の仕事が自然なので、朝飯前の仕事こそ本道をゆくもの。
朝食を昼まで遅らせることで、午前中は朝飯前の仕事ができて都合がよい。」(p、25)
 「論文を書くことを、ビールの醸造に例えるなら、ヒントとアイデアがあっても朝から晩まで考え続けても良い構想は浮かばない。
頭の中で長い間寝かせ発酵させておくがよい。」(p、39)
「つまり、頭の中で寝かせる、、発酵させることが思考の整理法、生み出しには大切だ。」(p、41)
 これらを読んだとき、私は「やったー」と思った。
というのも知らず知らずのうちに、全く自然に、私自身が会得し、実践していることだからーーー

 大げさな論文などではないけれど、例を上げてみよう。
ある日ある時、私流の短歌が一つ生まれかける。
しかし、五七五七七の最後の七にぴたりとはまる言葉が浮かばない。
夕食を作っているときも、後かたづけしながらも頭の語彙ノートを繰っているのだが、うまくいかない。
思いついた言葉をノートに記して、その夜は寝る。
翌朝、寝ても覚めてもいない夢うつつの状態で、その歌が無意識に頭に浮かび、最後の言葉がピタッとはまっている。まさに枕上の考えである。
誰とも言葉を交わさぬうちにノートに書き付ける。
不用意に「おはよう」などといってしまうと、それと一緒にその言葉も蒸発してしまう。 朝飯前の頭の働きが貴重なことはこの経験からもわかるのだが、かといって、一応主婦を業にしている女には、朝飯と昼飯を一緒にするという生活時間は到底無理。
それに朝食を食べてこない生徒に活力が無く、朝から居眠りをする人も多いのだから、栄養面、生理面から見ても、誰にでも推奨することはできないのだが、「枕上の思いつき、ヒントに注意深くあれ」は周人に広く知らしめたいことではある。

 本を読むとき、漫然と読み流したのでは、目の運動になるだけで頭には残らないから,感想文を書くことにしている。
そのために、読みながら、共感したところ、注目したところなどには、傍線を引いたり(自分の本に限る)、余白にメモ程度の要約や感想を書き込み付箋を付けておく。
読み終わって、まとめようとするのだが、素材は揃っていて、部分部分の文は頭に浮かぶが、全体がどうもうまくつながってこない。
こんな時は「もう止めた」とこの本のことは忘れたり、他の本を読み始めたりする。
三,四日経つた朝、夢うつつの枕上で、水面でバラバラに浮いていた油滴が一つの塊になるように、あちこちの短文が寄り集まって文の流れができてくることに気づく。
 こんな経験を我ながら面白いことだと思っていたのだが、これこそが、思いや考えを寝かせる、醸造することだと納得した。

 地域のカラオケ教室に入っている。
隔週に教室で練習し、一ヶ月で一曲し上げる。
新曲の譜面とテープを貰ってきて、家でも朝食の後かたづけの傍らテープを聴き、口ずさむのだが、一曲の中にも直ぐ覚え口に出るメロディーと、なかなかうまく音程がとれないところがあり、こんなところは歌っていればいるほどわからなくなる。
文を書くときのことを思いだして、しばらく練習をお休みにする。
その後、気分を新たにして歌ってみると、案外スムースにメロディーが出ることに気づく。言葉だけでなく音感にも脳内での醸造作業はあるらしい。
 「見つめるナベは煮えない」という諺があるそうだが(p、39)、余り注意しすぎては、かえって結果がよろしくない。しばらくは放っておく時間が必要だということを教えたものなのだろう。
昔の人も、思考の醸造に気づいていたのだろうかーーーー
 中学生の頃、一人の先生が言った言葉を思い出す。
「勉強ばかりしていても駄目だよ。
人間ボーとしている時間が必要なんだ。日向ぼっこでもしていれば、学んだことが、その間に悩にしみこんでくれるよ」
 国会の政党間の駆け引きにも、この醸造期間は大切だろうなどと思うのは飛躍しすぎだろうかーーー


同感3、情報の整理あってこそ思考がまとまる
 無意識の間に、脳が醸造作業を行って思考を組み立ててくれると言っても、まるっきりの無から有は生まれない。
ビールの醸造に麦芽と酵母が必要なように、思考は参考にする、あるいは材料にする文献や情報などの素材とそれを組み立てるためのヒントが必要である。
その素材を、どのように整理し生かしていくかの方法が、三章と四章にまことにわかりやすく、段階を踏んで述べられている。
その段階とは情報、文献の収集→ 整理→ 不必要なものの棄却→ 思考の高次化→
まとめだが、作者はこれを頭の中だけでするのではなく、スクラップブックやカードノート、手帳、ノート、メタノートなどを段階ごとに効果的に利用している。
小道具が重要な役目を果たしている。
言うなれば、これらの小道具は計算をするときのそろばんや計算機の役目、頭の書棚の狭さを補う補助書棚の役目を果たしていて、著者は自分の脳とこれら小道具の共同作業で思考し、論理を組み立てていることがわかる。

 このようにして思考の階段を上ることを著者は「メタ化のプロセス}と呼んでいる。
「情報は第一次情報と第二次情報があり、第一次情報を第二次情報に変える方法として、たとえばダイジェスト、要約がある。
思考、知識についても、このメタ化の過程が認められる。(メタ化=高次化)
最も具体的、即物的な思考、知識は第一次的である。
その同種を集め、整理し、相互に関連づけると、第二次的な思考、知識が生まれる。
これをさらに同種のものの間で昇華させると第三次的な思考、知識になる。
思考の整理というのは低次の思考を抽象のハシゴを登って、メタ化してゆくことに他ならない。」(p、74〜77)

 この高次化の実践あってこそ、本書の明快な論理と文章が生み出されていることを実感させてくれるのだが、私としては、この思考の高次化のプロセスは、科学実験を行うときの用意周到な実験計画の立案と、結果にのっとって次の実験段階を進めていく手法に相通じるものに思える。

 メタ化の過程でもう一つ必要なものがある。
それは編集という作業能力で、それについて著者は、次ぎのように書いている。
「原稿を書くのを第一次的創造とするなら、原稿を新しい、より大きな全体にまとめ上げるのを第二次創造と呼ぶことができる。」(p、50)
「編集において必要なのは、自分自身がどれくらい独創的であるかはさして問題ではない。
持っている知識をいかなる組み合わせで、どういう順序に並べるかが緊要事となる。」(p、51)

 編集を如何に進めるかについて、今でも私の指針となっている二つの言葉がある。
一つは、大学の卒業研究の開始に当たっての教授の言葉で
「結果をどのような表やグラフにしてまとめるかを考えた上で実験方法の計画を立てなさい。」
今ひとつは高校の弁論部の顧問先生のアドバイスで
「まず、主張の結論の要約を冒頭に打ち出しなさい」
ともに思考や物書き、編集において目的意識を持つことの大切さを示している。

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同感4,コンピューター
 この本が最初に書かれたのは一九八六年であり、コンピューターは普及し始めていたが、今ほど一般的ではなかった。
 それでも、「コンピューター」と名付けた章で著者は次のような危惧を示している。
「記憶とその再生は人間にしかできないとの考えに支えられ、これまでの知的活動、教育の中心は知識の記憶と再生にあった。
しかし記憶と再生の優秀な装置であるコンピューターの出現で、記憶と再生の人間的価値が揺らぎ始めた。
不完全な装置を頭の中へ組み込もうとしてきた、これまでの人間教育が急に間の抜けたものに見えだしてきた」(p、210〜211)

 今やコンピューターは記憶再生の役目を果たすだけではない。
ウエブネットの利用次第では、欲しい情報知識はいくらでも手に入れられる。
それらの編集すら可能だ。つまり手帳やノートを道具にして人間の脳が行ってきた知識のメタ化もコンピューターに取って代わられることも可能だろう。
そうなれば、作者の脳、思考のふるいを通さない知識のメタ化、論文の作成も可能になるだろう。
思考のプロセスにも変遷が起ころうとしている今の時代、コンピューターに支配されるのではない、人間主体、人間が利用する道具としての上手なコンピューター利用による思考の整理法を著者はどのように考えるのか聞いてみたい気がする。

「これからの人間は、機械やコンピューターのできない仕事をどれくらいよくできるかによって社会的有用性に違いいが出てくることははっきりしている」(p214)
と著者は結んでいる。
 問題は思考の整理法を飛び越して、人間が人間であることの価値の探求につながっている。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
すばらしい!参考になりました!読みたくなりました!
甲和
2009/06/19 23:40
甲和さま、ありがとうございます。
お読みになって下さい。得るものが多いと思います。
最近はテレビのクイズ番組などで、断片的、切り売り的な知識が反乱していますが、やはり、きちんとした思考方法を会得したうえでの知識が大切だし、さもないと身に付いた知識にならないと思うのです。
七十路淑美
2009/06/20 09:58
すごいなぁ
物事の考え方、受け取り方に共感いたしました。
今まであまりそんな風に思えるブログ?を見た事がありませんでした。
話してみたいですね
頭が良すぎて会話にならないかも・・・
shigeru
2009/07/15 01:01
shigeru さま、コメント有り難うございます。
すばらしいのは原本の方です。是非お読みいただくと、私の感じたこと以上のものがつかめると思います。
本を読んだ時、読みっぱなしにすると頭に残りません。
読みながら気になるところに付箋を付けたり、傍線を引いたりして置いて、後でもう一度読み直し、自分なりの感想をまとめることにしております。
この習慣が付くと、深く読むことができるような気がします。
この本は、自分が無意識にしていたことに筋道を付けてくれたような気がしながらこの感想文を書きました。
他にもいろいろ載せていますので、お暇にのぞいてください」。
七十路淑美
2009/07/15 14:55

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